猫っていろんな毛色を持っていますよね。ネコのカラーの世界って、知れば知るほど奥が深くて面白いんです。
「このネコとこのネコをかけ合わせたら、多分このカラーが生まれるね」——先輩ブリーダーさんたちがそんな会話をしているのを聞いて、自分でもこの世界を勉強してみたくなりました。教わったことや勉強会で学んだことを、ここで簡単にまとめてみようと思います。
これから紹介する考え方は、毛色遺伝の基本的な考え方です。バーマンのソックスなど、この基本説だけでは説明できない事柄もあり、新しい説も出てきていますが、メインクーンの毛色はこの基本説でだいたい説明がつきます。
1. 遺伝の基本
まずは、学生時代の生物の授業を思い出してみてください。
猫や人などの動物は、1つ1つの小さな細胞からできています。細胞には核があり、核の中には遺伝情報がぎっしり詰まった「染色体」があります。染色体はDNAでできていて、DNAは二重らせん構造をしており、体のどの部分をどう形作るかがそこに書き込まれています。

核の中の染色体は、お父さんから1つ、お母さんから1つの遺伝情報をもらうため、2本1組(1対)になっていて、動物の種類によって本数が決まっています。対になっている染色体はふつう同じ形をしています(常染色体)が、性別を決める染色体(性染色体)だけは、オスの場合ペアの形が違います。
メスが持つ性染色体をX染色体、オスが持つ性染色体のうちメスと形の違う方をY染色体と呼びます。つまりメスはXX、オスはXYと表せます。

細胞の増え方には「体細胞分裂」と「減数分裂」の2種類があります。

皮膚などの体細胞は、通常この体細胞分裂によって増えていきます。1つの染色体が2つに複製されるだけなので、できあがる細胞はもとの細胞と全く同じ遺伝情報(19対38本の染色体)を持っています。
一方、精子や卵子をつくる「減数分裂」は違う仕組みです。対になっている染色体が1本ずつバラバラになって分かれるため、できる細胞の染色体数はもとの半分(19本)になります。

オスの性染色体はXYなので、減数分裂でできた精子には、常染色体18本+XかYのどちらか1本が入ります。メスの性染色体はXXなので、卵子には常染色体18本+X染色体1本が入ります。

子供は精子と卵子が結合してできるので、お父さんから19本、お母さんから19本、合計19対(38本)の染色体を受け継ぎます。つまり、子供はお父さんの形質を50%、お母さんの形質を50%ずつ受け継ぐことになります。
性染色体の組み合わせに注目すると、XX・XX・XY・XYの4パターンができるので、単純に確率で考えると生まれてくるのは女の子50%、男の子50%ということになります。

この組み合わせを考えるときに便利なのが「チェッカーボード」という表です。これを書くと、できる組み合わせが一目でわかります。この後の章でも登場するので、覚えておいてくださいね。
2. カラー遺伝子の種類
猫の毛色を決めている遺伝子には、いくつかの種類があります。これらのカラー因子(遺伝子)の組み合わせによって、猫の毛色や柄が決まります。染色体が1対であるように、それぞれのカラー因子もお父さんから1つ、お母さんから1つずつ受け継ぐので、各カラー遺伝子は2つセットで持っていることになります。
猫の毛色は、これらの因子の組み合わせだけで、なんと1,153通りも生まれるそうです。
A遺伝子(アグーチ因子)
ソリッド(単色)になるか、アグーチ(縞ガラ)になるかを決める因子です。アグーチとは、1本の毛が縞模様(バンド)になっていることをいいます。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| A(優性) | タビー(アビシニアンのように一見単色に見えるが、1本1本の毛が縞になっているものも含む) | AA・Aa |
| a(劣性) | ソリッド(単色) | aa |


ブラックにアグーチが入るとブラウンタビーになります(ブラウンタビーの基本色は黒Bで、ブラウンbではないので注意)。
B遺伝子(ブラック因子)
ブラックの毛色を決める因子です。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| B(1番優性) | ブラック | BB・Bb・Bb¹ |
| b(2番優性) | チョコレート | bb・bb¹ |
| b¹(劣性) | シナモン | b¹b¹ |



チョコレートはラグドールのチョコレートポイントで見かける色、シナモンはそれよりさらに明るい茶色です。
C遺伝子(フルカラー因子)
色をつける場所と、その濃さに関係する因子です。フルカラーか、ポイント(耳・鼻先・足先など体温の低い部分だけ色が濃くなる)かを決めます。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| C(優性) | フルカラー | CC・Ccb・Ccs |
| cb(劣性) | バーミーズ(セピア) | cbcb |
| cb×cs | ミンク(トンキニーズのようなポイント) | cbcs |
| cs(劣性) | サイアミーズ(はっきりしたポイント) | cscs |



D遺伝子(ダイリュート因子)
もとの色を薄める(希釈する)因子です。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| D(優性) | 希釈されない(ブラック・レッド・チョコレート・シナモン・シルバーなど) | DD・Dd |
| d(劣性) | 希釈される(ブルー・クリーム・ライラック・フォーンなど) | dd |


I遺伝子(シルバー因子)
毛の根元を薄くする因子です。Iがひとつでもあれば、アグーチの場合はシルバー、ノンアグーチの場合はスモークになります。根元の白い部分の多さによって、シェーデッドやチンチラシルバーにもなります。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| I(優性) | 毛の根元が薄くなる | II・Ii |
| i(劣性) | 薄くならない | ii |



O遺伝子(オレンジ因子)
黒を赤に変える遺伝子です。この因子はX染色体(性染色体)上にあり、Y染色体上にはありません。そのためオスはX染色体を1つしか持たず、O因子も1つしか持てません。つまりオスはレッドか黒のどちらかになり、これがオス猫に三毛猫がいない理由です。
メスはこの因子を2つ持てるため、O・o(黒とレッドが両方出る組み合わせ)だと、部分的に黒と赤に分かれた毛色になります。ノンアグーチのメスなら「トーティー」、アグーチのメスなら「トービー」と呼ばれます。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| O | レッド | O(♂)・OO(♀) |
| O/o | トーティー・トービー(♀のみ) | Oo(♀) |
| o | 黒(レッドなし) | o(♂)・oo(♀) |



T遺伝子(タビー因子)
タビー(縞ガラ)の柄の形を決める因子です。ただし、A遺伝子がaa(ソリッド)だと、タビー柄自体が隠されてしまいます。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| Ta(1番優性) | ティックドタビー(アビシニアンのように一見タビーに見えないが、全身の毛がタビーになっている) | TaTa・TaT・Tatb |
| T(2番優性) | マッカレルタビー(縦じま、サバ柄) | TT・Ttb |
| tb(劣性) | クラシックタビー(ブロッチドタビー。渦や島のような柄) | tbtb |




S遺伝子(白斑因子)
アンドホワイトや、ラグドールのバイカラー、バーマンのように、足先やお腹が白くなる因子です。生まれる前の成長過程で背中や頭から色がついていくのですが、S因子があると途中で色がつくのをやめてしまうため、白い部分ができるといわれています。耳の先やしっぽの先だけがちょっと白い、というのは単なる「白抜け」で、S因子とは別物です。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| S(優性) | アンドホワイトになる | SS・Ss |
| s(劣性) | アンドホワイトにならない | ss |



W遺伝子(ホワイト因子)
全身ホワイトになるかどうかを決める、いわば最強のカラー因子です。他の因子でどんな色や柄が決まっていても、Wがひとつでもあれば、それらをすべて打ち消して白猫になります。
| 因子 | 表現型 | 遺伝型 |
|---|---|---|
| W(優性) | ホワイト | WW・Ww |
| w(劣性) | 上記カラー因子で決まった色がそのまま出る | ww |

3. カラー遺伝子それぞれの関係
猫のカラーは、これらの因子の組み合わせで決まります。遺伝子は基本的に2つが1組で、色・柄・形を決める各遺伝子をお父さんから1つ、お母さんから1つずつ受け継ぎ、その組み合わせが子供の形質を新しく作り出します。カラー遺伝学を知っていると、血統書の見方もまた違ってきて面白いですよ。
優性遺伝子と劣性遺伝子
まず前提として、優性・劣性の話をします(メンデルの優性の法則)。遺伝子には、ひとつだけでもあればその特性が表に出るもの(優性遺伝子)と、2つそろわないと表に出てこないもの(劣性遺伝子)があります。
たとえば、猫の毛の長さの遺伝で考えてみましょう。
- L(優性):短毛になる遺伝子
- l(劣性):長毛になる遺伝子
Lの因子はlより強いため、LL・LlのようにLがひとつでも入っていれば短毛に、llの場合だけ長毛になります。
では、長毛のパパ(ll)と短毛のママ(LL)から生まれる子は、どうなるでしょう?

パパは長毛なのでL因子を持っていません(ll)。ママは短毛なので、少なくとも1つはL因子を持っています(ここではLLと仮定)。子供はすべてLlの組み合わせになるので、全員短毛になります。つまり長毛と純粋な短毛の両親からは、短毛しか生まれません。純血のアビシニアンとソマリを交配しても、アビシニアンしか生まれない、というのはこの仕組みによるものです。
では、この短毛の子供(Ll)と長毛(ll)を交配したらどうなるでしょう? 今度は短毛と長毛が50%ずつの確率で生まれます。アビシニアンとソマリの間に生まれた子(見た目はアビシニアン)に、もう一度ソマリを交配すると、アビシニアンとソマリが半分ずつの確率で生まれる、ということですね。
さらに長毛同士(ll×ll)を交配すると、L因子を持ちようがないので、生まれる子は全員長毛。ソマリ同士の交配からはソマリしか生まれません。
では逆に、「短毛同士の両親からは短毛しか生まれない」と言えるでしょうか?——実はそうとは限りません。見た目が短毛(優性形質)でも、その裏にLl(長毛因子を隠し持つ)という組み合わせがあり得るからです。これが、優性遺伝子の”隠れた因子”の面白いところです。
4. 生まれてくる仔猫の推定の仕方
最後に、飼っている猫が持っている遺伝子を推定して、生まれてくる仔猫の毛色を考える方法をご紹介します。
まずは、その猫の見た目(表現型)から、持っている因子を特定していきます。
例として、ブラウンクラシックタビーのオス猫(仮に「福」とします)を考えてみましょう。
- ブラウンタビーなので、ノンアグーチ(aa)ではありません。必ずAをひとつは持っているはずですが、AAかAaかは見た目だけではわからないので「A−」と記載します。
- ブラウンタビーは黒のアグーチなので、Bをひとつは持っています(B−)。
- ポイントカラーではないのでC−、希釈されていないのでD−。
- シルバーでもスモークでもないので ii。
- オレンジは入っていないので o(オスなのでX染色体は1本、o因子も1つ)。
- クラシックタビーなので、劣性の tbtb を2つとも持っています。
- アンドホワイトでも白猫でもないので、ss・ww。
このように、見た目からわかる因子と、わからない「−」の部分に分けて特定していきます。
「−」の部分(見た目だけでは判断できない、隠れているかもしれない因子)を絞り込むには、次のような手がかりを使います。
- 血統が持つ傾向:メインクーンではチョコレートやシナモンという色は基本的に出てこないので、ほぼBBと考えられます。同様にポイントの子が生まれたことがなければ、ほぼCCと考えられます。
- 両親の毛色:たとえば母猫がタビーではなくソリッド(黒猫、aa)だった場合、父猫がa因子を持っていなくても、子供は必ずa因子をひとつ受け継ぎます。逆に両親ともタビーだと、ソリッド因子を持っているかどうかは見た目だけでは判断できません。
- 兄弟・祖父母などの血統全体:たとえば母猫が過去に黒猫を産んだことがあれば、母猫はa因子を持っている(Aa)と特定できます。父方の血統に、ソリッド因子がないと出ないカラー(スモークなど)の猫がいれば、そこからa因子を受け継いでいる可能性がある、というように、パズルを解くように推理していきます。
ただし、血統書の中にその因子を持つ猫が見当たらないからといって、因子が「絶対にない」とは言い切れません。遠い祖先から代々受け継がれていながら、たまたま今まで組み合わせが揃わず(ホモ化せず)、表に出てこなかっただけ、ということもあるからです。あくまで確率の話として捉えるのがポイントです。